大阪高等裁判所 昭和30年(ネ)589号 判決 1963年10月30日
控訴人 松室春智 外一名
被控訴人 京都府知事
訴訟代理人 山内淳
主文
原判決を取消す。
一審被告が一審原告松室春智に対し昭和二八年一月一二日付買収令書をもつて別紙第一目録(1) (2) (3) の土地につきなした買収処分はこれを取消す。
一審原告松室春智のその余の請求及び一審原告松室庄一の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用中、一審原告松室春智と一審被告との間に生じた部分は、第一、二審を通じてこれを二分し、その各一を一審原告松室春智及び一審被告の負担とし、一審原告松室庄一と一審被告との間に生じた部分は 第一、第二審を通じ、一審原告松室庄一の負担とする。
事 実 <省略>
理由
別紙第一目録記載の各土地は原告松室春智、別紙第二目録記載の各土地は原告松室庄一の所有であるところ、被告が自創法第三〇条により右各土地につきそれぞれ昭和二八年一月一二日付買収令書を以て買収処分をしたことは当事者間に争いがない。
そこで右各買収処分を違法とする原告等の主張について順次判断する。
一、本件各買収処分の前提たる買収計画が二重の行政処分であるから違法であるとの主張について。
この点についての当裁判所の判断は、次に附加するもののほか、原判決理由に記載の判断(判決書八枚目裏二行目から一〇枚目裏一行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。
(一) 実質上裁判の性質を有する訴願裁決等は別として、一般に行政処分は公益上の見地から相当と認められるときは、処分庁自らこれを取消し得るのが原則であつて(尤も行政処分の取消によつて失われる法律秩序の破壊が取消を認める公益上の必要よりも重視せらるべき特別の事情ある場合は格別であるが、本件の場合はかかる特別の事情は認められない)右行政処分が訴願の対象となつて現に争訟中であると否とによつてその結論を異にするものではない。(最高裁判所第一小法廷昭和二九年一月二一日判決、判例集第八巻一号一一〇頁参照)そうすると第一回買収計画に対する訴願が係属中のため処分庁がこれに覊束せられて取消しえないことを前提とする原告等の主張は、その余の点について判断をなすまでもなく失当である。
(二) 原告等は、買収計画の取消については、買収計画の樹立と同一の方式によるべきで、合議体である農業委員会がその取消の決議をしてこれを公示することが必要であり、第二回買収計画の公告による第一回買収計画の黙示の取消はありえない、と主張し、右京区農業委員会が第一回買収計画を取消の決議をしていないことは被告の明らかに争わないところであるが、
一般に行政庁が一定の手続を経てなした行政処分に瑕疵を認め、自らこれを取消す場合、その取消の手続について特別の定めのある場合のほか、処分庁は明示の取消の手続をとることなく、再度同一手続を経て前処分を補正する趣旨で前処分と相容れない処分をすることにより、黙示的に前処分を取消し得るものと解するのが相当である。本件においても、自創法には買収計画の取消手続について特別の定めはなく、前認定のとおり、処分庁たる右京区農業委員会が第一回買収計画に瑕疵を認め、これを補正する趣旨の下に、再度第一回買収計画の目的となつた土地につき、第一回買収計画の目的たる土地の面積及び対価を訂正して第二回買収計画を樹立してこれを公告したのであるから、前説示のとおり、第二回買収計画の公告により第一回買収計画を黙示の意思表示により取消したものと解すべきであり、右農業委員会において第一回買収計画につき取消の決議をしてこれを公告せざる限り、第一回買収計画を取消すことができないとする原告等の主張は採用し得ない。
(三) 次に、原告等は、旧農業委員会法第四九条により農業委員会は一旦樹立した買収計画の取消をしようとするときは、当該処分が取消すべき処分であることにつきあらかじめ都道府県知事の確認を得なければならないにも拘らず、右京区農業委員会は第一回買収計画の取消について京都府知事の確認を得ていないから、第二回買収計画の公告をもつて、第一回買収計画を取消す黙示の意思表示があつたものと解することはできないと主張するので考えてみる。成立に争いのない乙第二号証の一、二によると、第二回買収計画樹立にあたり、京都府知事は右京区農業委員会長松山熊造の申請により、別紙第一目録(1) (2) (3) (5) 及び第二目録(1) の土地につき、賃貸価格に代るべき価格の決定の認可をしている事実が認められ、該事実に徴すると、右京区農業委員会は第二回買収計画の樹立につきあらかじめ京都府知事の承認を得ていたものと推認できないことはなく、仮にその承認を得ていなかつたとしても、旧農業委員会法第四九条(現行の農業委員会等に関する法律第三三条)は都道府県知事の農業委員会に対する監督権に関する規定であつて、農業委員会がその処分の取消につき「あらかじめ」都道府県知事の確認を得なくとも、事後においてその承認を得るときは、その取消処分の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。本件において被告京都府知事が第二回買収計画の昭和二八年一月一二日付買収令書を原告等に交付したことはば当事者間に争いがないから、該事実に徴すると、京都府知事が第二回買収計画樹立に対し承認を与えたことが明らかである。そうすると、第二回買収計画樹立につき京都府知事において承認を与えている以上、第二回買収計画により補正された第一回買収計画の取消についても承認を与えたものというべきであるから、第二回買収計画の公告により第一回買収計画を取消す旨の黙示の意思表示があつたものと解する妨げとなるものではない。原告等の右主張も理由がない。
二、本件買収処分は、別紙第一目録(2) の土地を除くその余の土地については一筆の土地の一部を買収するものであるに拘らず、買収令書には買収部分の明示を欠くから、違法であるとの主張について、
第二回買収計画において、原告春智所有の別紙第一目録(1) (3) (4) (5) の各土地及び原告庄一所有の別紙第二目録(1) (2) の各土地については、原告等主張のとおり、いずれも一筆の土地の一部を買収するものであることは当事者間に争いがなく、かゝる場合その目的たる土地は買収令書において特定することを要し、買収の目的たる土地がいずれの部分か知ることのできない買収処分は違法であり、その違法は買収処分を無効ならしめるものというべきである。(昭和二六年三月八日最高裁判所第一小法廷判決)しかしながら買収令書に買収目的地の表示として一筆の土地の一部を単に地積を表示して掲げるに過ぎない場合においても、買収手続当時の事情の下で、右の表示が一筆の土地のうち特定の一部を指すものであることが関係当事者間に疑を容れない程度に看取し得る場合には、これをもつて買収目的地が特定されているものと解するを妨げない。(昭和三二年一一月一日最高裁判所第二小法廷判決、判例集一一巻一二号一、八七〇頁参照)本件についてこれをみるに、成立に争いのない甲第七、八号証に、当審における原告松室庄一本人尋問の結果(第一、二回)を総合すると、本件各買収令書には買収の目的たる土地の表示として右各土地の地番、地目、地積が記載せられていただけで、その部分を明示する図面等が添附せられていなかつたことが認められるけれども、図面を除く部分については成立に争いがなく、当審証人山田太刀男(第一、二回)同土田正彦、同松山熊造の各証言により右図面部分もまた真正に成立したものと認める乙第八号証に、右証人等及び原審証人玉村季夫の各証言並びに原審及び当審(第一、二、三回)の各検証の結果を総合すると、第二回買収計画樹立当時、右京区太秦北路三、五、七、一一、一九、二〇番地の各土地はいずれも開墾せられて田畑として耕作されていた部分と竹、樹木、雑草等が生い茂つていた部分とに分れ、その範囲、境界は客観的に明確となつており、原告等も右田畑以外の部分が買収の目的地であつたことをよく承知していたのみならず、右京区農業委員会は第二回買収計画樹立に当つて原告等の母松室としゑ立会の上買収部分を測量し、測量図面を作成し、第二回買収計画には右図面を添附して公告したことが認められ、右認定に反する当審証人松室としゑ(第二回)の証言及び当審における原告松室庄一本人尋問の結果(第二回)は前記証拠と対照して信用し難く、地に右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると本件買収令書に買収の目的として表示せられていた別紙第一目録(1) (3) (4) (5) の各土地及び別紙第二目録(1) (2) の各土地は、いずれも一筆の土地の特定の一部として関係当事者間に疑を容れない程度に明確であつたことが認められるから、前説示の理由により本件各買収令書の買収土地の表示は特定せられていたものというべく、原告等の右主張は採用し得ない。
三、原告等は更に(一)別紙第一目録(1) (2) (3) の各土地が未墾地でなく、植木畑(農地)であること、(二)本件買収計画は自作農の創設を目的とせず、買収後再び被買収者に売渡す旨の条件付買収計画で、それ自体買収の必要の要件を欠き違法であること、及び(三)本件各土地の買収が土地の農業上の利用を増進するため必要でなく、反つて原告等の農業経営の安定を害すること等を主張して本件買収処分の効力を争うのであるが、被告はこの点について農業委員会が開拓適地について買収するや否やを決定することは同委員会の自由裁量処分であるから、違法の問題を生ずるものではない、と主張するので、先ず被告の右主張について判断する。自創法第三〇条は「自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を増進するため必要あるとき」に「農地及び牧野以外の土地で農地の開発に供しようとするもの」を買収しうることを認めており、右必要性の認定は買収手続を行う所管農業委員会の自由裁量処分と解すべきであるが、同条は「自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を増進する必要ある場合」に限つて土地所有者の意に反して未墾地の買収を許す趣旨と解すべきであるから、その裁量が著しく右目的に反するときは違法となるものというべく、又右裁量権を認められた前提たる事実の認定を誤つた場合は違法となることはいうまでもない。右見地に立つて原告等主張の違法事由について考察する。
(一) 別紙第一目録(1) (2) (3) の土地は植木畑(農地)であつて未墾地ではないとの主張について、
原審及び当審証人松室としゑ(いずれも第一回たゞし当審証言中後記の措信しない部分を除く)、同池内清治、原審証人杉本貞造(第一回)、井上博道、同山田末吉、同玉村季夫、当審識人上山久美、同平杉嘉四郎の各証言、原審及び当審における原告松室庄一本人尋問の結果(いずれも第一、二回)、原審及び当審(第一ないし第三回)における各検証の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、
原告等先代亡松平春一郎及びその妻松室としゑは昭和二年頃別紙第一目録(1) (2) の土地上の竹藪の開墾し、椿、桜、南天、山茶花等多くの鑑賞用樹木苗木を植栽して植木畑とし、別紙第一目録(3) の土地もその後開墾して同じく植木畑とし、農家の副業として池内清治、井上博道、山田末吉等植木職を営む人々に植木を販売して来た。亡春一郎は植木を好み農業の余暇に植木畑の手入に力を尽していたが、戦時中及び戦後の食糧不足時代には食糧の増産に力を注ぎ、一方植木の需要も少なかつたので雑草の除去、肥培管理等も十分にはなされず、殊に昭和二〇年二月春一郎死亡後はその管理はおろそかとなり、本件買収計画樹立当時には雑草も生い茂り、畝等も殆んど荒廃している状態にあつたが、成長した植木は、その管理が十分でなくても、枯死する等甚しい影響を受けることはないので、右各土地には桜、青桐、樫、南天、椿、もみぢ等数十本の植木があり、なお時折植木職を営む前記池内、井上等に植木を販売して収益をあげ、原告春智としてはこれらの土地をなお植木畑として保持していた事実が認められ、右認定に反する原審証人前田一夫、同江上敏之助、原審及び当審証人板倉正一、同小尾勝一、同松山熊造(原審は第一回)の各証言及び当審証人松室としゑの証言の一部は前記証拠と対照して採用できない。しかして自創法にいう農地とは耕作の目的に供せられる土地をいい、耕作の目的が鑑賞用植物の栽培にあつても妨げないものと解すべく、また肥培管理等農耕に必要な作業が行われていることが必要であるけれども、その管理の程度は栽植の目的である植物の必要とする限度によつておのずから異り成長した植木の栽植せられた植木畑のような場合には多少その管理に欠くるところがあつても、直ちに植木畑としての効用が失われるものでなく、かつ少しく手を加えれば原状に回復することも容易であると考えられるから、前認定の第二回買収計画樹立当時の右各土地の状態をもつて既に植木畑たる性質を失い、未墾地(雑木林)と化したものと解するのは相当ではない。尤も成立に争いのない乙第五号証に、原審証人江上敏之助、同黒田清、同小尾勝一及び同松山熊造(第一回)の各証言によると、第二回買収計画樹立にあたり右京区農業委員会は京都府開拓審議会京都市地方審査部会に諮問し、同部会において調査した結果右部会は右各土地につき、当時肥培管理が不充分であつたことに主眼点をおき、右各土地が未墾地で開発適地と判定したことが窺われるけれども、右各土地が未墾地なりや否やを決定するにはその現状のみならず、その来歴、効用等を参酌すべきであつて、これを参酌するときは前認定のとおり、右各土地は未墾地ではなく植木畑と認めるのが相当である。そうすると右各土地を未墾地として樹立した第二回買収計画は右京区農業委員会が裁量権を認められた前提となる事実を誤認したこととなるから、違法たるを免れない。しかしながら右違法は必しも明白なものとはいいえないから、当然無効となるものではなく、取消すべきものと解するのが相当である。以上の次第で本件買収処分中原告春智に対する別紙第一目録(1) (2) (3) の名土地に関する部分は、爾余の点につき判断するまでもなく、取消すべきものである。
そこで以下右土地を除く別紙第一目録(4) (5) 及び第二目録(1) (2) の土地の買収処分の適否について判断する。
(二) 本件土地買収計画は自作農創設を目的とせず、買収後再び被買収者に売渡す旨の条件付買収計画で、それ自体買収の必要の要件を欠き違法であるとの主張について、
第二回買収計画に対する異議棄却の決定において右京区農業委員会が、昭和二八年四月中に本件土地の開墾を完了した時は所有者に売渡す旨決定していることは当事者間に争いがない。(被告は右決定は右開墾をその記載のとおり完了したときは、所有者にも売渡す趣旨であると主張するけれども、被告主張の趣旨でないことは成立に争いのない甲第三号証の右決定の文言により明白である。)そして右事実によると、第二回買収計画の樹立は右各土地を開発して自作農を創設する緊急の必要があつたためなされたものとは認められない。(尤も当審証人松山熊造の証言によると、太秦地方の農家の経営面積が一戸当り平均五反内外で地元増反の必要があつたことが認められるから、自創農創設の必要が高度なものでなかつたとは考えられない。)しかしながら、右京区農業委員会は、後段認定のとおり土地の農業上の利用を増進するため必要あるものと認め、第二回買収計画を樹立したことが認められるから、買収の必要の要件を欠くものといいえない。また、買収計画に対する異議棄却の決定の理由中に右のような決定がなされても、未墾地買収及びその売渡がそれぞれ別個の要件に基き、かつ異る見地から決せられ、手続も互に独立しているのであるから、買収計画の条件となつたものと解することはできない。
なお、原告等な、新農地法においては未墾地買収は、「自作農を創設し又は自作農の経営を安定させるため必要があるとき」にのみなしうることと改められ、「土地の農業上の利用を増進する」目的をもつては許されないところ、本件買収につき右京区農業委員会が買収計画を樹立したのは昭和二七年七月五日で新法公布の五日前であり、買収の時期及び買収令書の交付はいずれも新農地法施行後であり、かかる場合新法では許されざる「土地の農業上の利用を増進するため必要」ありとして買収処分をなすことは法律を濫用するものであつて違法である、と主張し、第二回買収計画の樹立が農地法公布の一〇日前であることは当裁判所に顕著であり、買収期日が同年一一月一日で、買収令書の交付が昭和二八年一月一二日であることは当事者間に争いがないが、第二回買収計画の公告が昭和二七年七月七日になされていることは成立に争いのない甲第一号証の一、二により明らかであるから、農地法施行法第二条第一項第三号により自創法が適用せられることとなり、同法第三〇条により土地の農業上の利用を増進するため必要ありとして第二回買収計画を樹立したことは何等違法ではなく、(殊に第二回買収計画は同年五月一五日樹立せられた第一回買収計画の瑕疵を補正する趣旨で再度樹立せられたものであること前認定のとおりである。)また前記事実のみを以て自創法の規定を濫用したものということはできないし他に同委員会において自創法の規定を濫用したものと認むべき何等の証拠もないから、原告等の右主張は採用できない。
(三) 別紙第一目録(4) (5) 及び第二目録(1) (2) の土地の買収は土地の農業上の利用を増進するため必要ではなく、反つて原告等の農業経営の安定を害するとの主張について、
第二回買収計画樹立当時右各土地が農地ではなく、竹藪であつたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証、同第五号証に原審及び当審証人松山熊造(原審は第一回)、同小尾勝一、同板倉庄一、原審証人江上敏之助、同黒田清、同玉村季夫の各証言並びに原審及び当審(第一、二、三回)における各検証の結果を総合すると、右各土地は原告等及び附近農家の耕作地の間に位し、ために隣接する耕作地に日蔭を生じ、かつ農作物に鳥害をもたらすため地元農民よりその伐採開墾を要望する声があり、加うるに右京区太秦方価は零細農が多く地元増反の必要もあり、反面右竹藪の竹は良質のものではなく、これを存置するよりも開墾して耕作地として蔬菜を栽培する方が遥かに多くの収益を挙げることができ、国土資源の利用を増進することとなるので、右京区農業委員会は右各土地の農業上の利用を増進するためその開発の必要を認め、昭和二七年六月二四日京都府開拓審議会京都市地方審査部会の適地判定を受けて、第二回買収計画を樹立し、これに基き本件買収処分をなしたことが認められ、右認定に反する甲第四号証中の上申書部分の記載、原審及び当審(いずれも第一回)証人松室としゑ、原審証人杉本貞造(第一回)同大井重三、同前田一夫、同渡辺録郎の各証言並びに原審及び当審(いずれも第一回)における原告松室庄一本人尋問の結果は前記証拠と対照して採用することができず、他に右認定を覆すに足る適確な証拠はない。一方、原審(第一回)及び当審(第一回)証人松室としゑ、原審証人江上敏之助の各証言並びに原審(第一、二回)及び当審(第一、二回)における原告松室庄一本人尋問の結果を総合すると、第二回買収計画樹立当時、原告春智は田約四反五畝、畑約七反を所有して同原告夫婦及び原告等の母松室としゑが主として農業に従事し、原告庄一は原告春智の実弟であつて、田約一反九畝畑約八反五畝を所有して同原告及び妹が主として農業に従事し、いずれも専業農家であつたこと、原告等は世帯は別にしていたが同一家屋に居住していたこと、原告等はその所有の畑において主として蔬菜を栽培し、殊にさんど豆の栽培が多く、蔬菜の支柱竹として多くの竹材を要し、年間約六〇束の竹材を採取してその約三分の一を蔬菜の支柱用等に使用していた外原告等方の約半年分の燃料の供給を右竹藪から得、なお、余剰竹材の売却により一ケ年反当り二八、〇〇〇円位の収益を得ていたこと、原告等には右竹藪のほかに太秦北路町一八番地所在の三畝余の竹藪が残されており、その外に薪炭採取用の山林一反三畝余を所有していたこと、しかして右竹藪は右京区農業委員会が第二回買収計画樹立にあたり原告等の農業経営上の必要を考慮して特に買収計画より除外したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
以上認定の諸事実を総合して考察すると、右各土地を竹藪として存置するよりも、これを開墾して耕作地とすることが土地の農業上の利用を増進することは明らかであり、(原告等主張のように当時蔬菜が生産過剰であつた事実を認めるべき証拠はない)また、原告等は本件各竹藪の外に薪炭採取用として山林一反三畝余を、蔬菜栽培支柱用材林として太秦北路町一八番地所在の三畝余の竹藪を所有していたのであるから、(尤も前記証拠によると、右一八番地の竹藪はその後原告等により伐採せられたことが認められるけれども、右事実が買収計画の適否の判断に影響を及ぼすものでないことはいうまでもない。)その耕作面積、家族数等を考え併せてみても、右各土地が買収せられることにより、原告等の農業経営に重大なる支障を来し、農業生活の安定を害するものとは認め難く、従つて右各土地の買収計画樹立につき右京区農業委員会がその裁量権の行使を誤つた違法があるとは認めえないから、原告等の右主張も採用しえない。
四、以上の理由により、被告が原告春智に対してなした別紙第一目録(1) (2) (3) の土地に対する買収処分の取消を求める原告春智の請求は正当としてこれを認容し、原告春智のその余の請求及び原告庄一の請求はいずれも失当として棄却すべく、これと異る原判決はこれを取消し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条第九二条第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小野田常太郎 柴山利彦 下出義明)